長谷ってどんなところ?

2022.3月

3つの山小屋を繋いで、南アルプスの女王「仙丈ヶ岳」に会いに行く

そのなだらかな山容から「南アルプスの女王」と呼ばれている仙丈ヶ岳は、甲斐駒ヶ岳(東駒ヶ岳)とともに、南アルプス北部を代表する名峰として多くの登山者に親しまれています。この記事では、北沢峠を起点に、3つの山小屋を繋いで仙丈ヶ岳を目指す山旅の楽しみ方をお届けしましょう。(ライター・松元麻希)

 

 

林道バスに乗り標高2,000mに建つ「北沢峠こもれび山荘」へ

健脚な人であれば、戸台川沿いの登山道を歩いて北沢峠へ向かうこともできる(片道約6時間) (C)オゾングラフィックス

 

仙丈ヶ岳への旅の起点となるのは、伊那市長谷の宿泊・日帰り入浴施設「仙流荘」のバス停、または「戸台大橋」のバス停からとなる。ここから先にあるゲート以降の「南アルプス林道」は、自然保護のためにマイカーの乗り入れが禁止となっているからだ。

 

仙流荘横の駐車場に車を停めて、南アルプス林道バスに揺られること約1時間。伊那市でもっとも高所にある標高約2,000mのバス停「北沢峠」でバスを降りると、さっそく目の前に一軒目の山小屋「北沢峠こもれび山荘」が現れる。

 

仙流荘のバス停。7月第2土曜日から10月第2月曜日までの休日等(土曜日、日曜日、祝日)は、5時半から運行している

バスの車窓からは、甲斐駒ヶ岳や鋸岳を眺めることができる。秋は、林道沿いに群生するカラマツの黄葉が美しい

 

北沢峠こもれび山荘では、山麓の珈琲専門店「カフェ・コーデ」の豆を使ったドリップコーヒーが提供されている。登山の前の景気づけにコーヒーを一杯、なんてことも可能だ。トイレも済ませて心の準備が整ったら、さっそく歩き始めよう。

 

バス停の目の前に建つ、北沢峠こもれび山荘。宿泊はもちろん、昼食利用やお土産の購入もできる、南アルプス北部のターミナルだ

 

沢を登りハイマツを抜けてたどり着く小さな庭園「馬の背ヒュッテ」

仙丈ヶ岳のカール下を源流とする沢に沿って設けられた「薮沢重幸新道」

 

北沢峠から標高3,033mの仙丈ヶ岳山頂へはいくつかのルートがある。午前中に天気がいい場合におすすめなのは、小仙丈ヶ岳という標高2,855mのピークを経由して目指すルート。途中で、日本の標高トップ3である富士山・北岳・間ノ岳を眺められるスポットがあることに加えて、小仙丈ヶ岳からの仙丈ヶ岳のカールの景色がすばらしい。

 

登りにおいて景色の変化が多彩なのは、今回ご紹介する「薮沢重幸新道」を通るルート。北沢峠から少しだけ下り、山小屋「大平山荘」の脇より伸びる、樹林帯に囲まれた道を登って行く。歩き始めは急傾斜が続くけれど、心拍が上がり過ぎないようゆっくり登れば問題なし。1時間も歩けば、明るい沢沿いの道に出る。

 

馬の背ヒュッテは、ログハウスのような外観が特徴

ダケカンバの間を埋め尽くす、可憐な高山植物

清々しい沢の流れを横目に、さらに登ること約1時間半。ハイマツに囲まれた道の先に、2階建てで存在感のある山小屋「馬の背ヒュッテ」が見えてくる。山小屋のまわりは高山植物が広がり、まるで庭園のような光景だ。

 

夏になると、登山道や山頂付近に高山植物が咲き誇るため「花の仙丈」という異名ももつ仙丈ヶ岳だが、近年では鹿の食害によって高山植物が激減。そこで、山小屋や地域の人々によって、登山道沿いに鹿柵が設置されている。その甲斐もあり、色とりどりの高山植物がふたたび咲き誇るようになったそうだ。

 

 

カールの下に佇む山小屋「仙丈ヶ岳」でごほうびランチ

カールとは、氷河によって削り取られたお椀のような地形のこと。写真中央にポツリと建つのが仙丈小屋だ

仙丈小屋は3階建て。2階が受付や食堂で、3階が客室になっている。2021年秋に、絶景のテラスが完成した

 

馬の背ヒュッテから先は緩やかな稜線の道が続くので、思わずスキップしたくなるほど軽快に歩くことができる。1時間強で、仙丈ヶ岳の山頂直下に広がるカールの麓に建つ「仙丈小屋」へ。

 

仙丈小屋は、絶景を眺められるというロケーションのよさに加えて、蕎麦職人・居酒屋の板前・リゾートホテルの調理人などさまざまな経験をもつ小屋番の手料理をいただけることで人気が高い。約1,000mを登ってきたごほうびに、ここでぜひランチを味わってほしい。

 

昼食で提供されている、インドネシア風お好み焼き「マルタバ・テロ―ル」。ほか野菜の水分だけで煮込んだ「無水カレー」も人気

 

仙丈ヶ岳山頂からの景色。栗沢山や甲斐駒ヶ岳、その奥には中央アルプスが屏風のようにそびえる

仙丈小屋から仙丈ヶ岳の山頂へは、片道約30分でたどり着ける。そこから先は、元来た道を引き返してもいいし、もし天候がよければ小仙丈ヶ岳を経由して下山するのもいいだろう。絶景に見惚れるあまりバスの最終に乗り遅れないこと、そして北沢峠に着いたら北沢峠こもれび山荘でお土産をチェックすること、バスを降りたら仙流荘の入浴施設で汗を流すことをお忘れなく。

 

写真提供:伊那市 山岳高原観光課
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