長谷ってどんなところ?

2022.3月

【長谷住民からのお便り】中尾歌舞伎 長谷の環境と、そこに暮らす人々に惹かれて

中尾の田んぼ風景

 

自然しかり、住人しかり、歴史と文化しかり。長谷には様々な、そして多くの魅力があります。江戸時代にはじまったとされる「中尾歌舞伎」もそのひとつ。戦中~戦後の混乱で途絶えていたものの、長谷に住む人々の手で見事復興し、今また長谷に住む人々の手で守り育まれている中尾歌舞伎を演じる重責と喜びを、その舞台に立った移住者、外山真美さんがリポートしてくれました。

 

 

長谷中尾地区で引き継がれる「中尾歌舞伎」

中尾歌舞伎は、江戸時代の明和4年、この地を訪れた旅芸人によって山の神様を祀る神社の前宮で演じられたのがはじまりと伝えられます。しかし第2次世界大戦中から戦後にかけて途絶えてしまいました。「慶応元年丑歳」と記された引き幕が現存しますが、その時代を唯一今に伝えています。

 

 昭和61年、ふるさとの伝統をあらためて見直し、地域を盛り上げていこうという地区の青年たちがお年寄りの指導を受けて復活させました。そして平成8年には回り舞台も設置された本格的な芝居小屋『中尾座』が完成、その柿葺落には歌舞伎俳優の大御所、十二代 市川團十郎丈をお呼びして話題をあつめました。

 

 また、平成18年に長谷村、高遠町、伊那市と合併し、現在の伊那市の「無形民俗文化財」に指定されています。

 

令和2年は新型コロナの影響で、公演中止となってしまいましたが、令和3年は、秋に特別公演として開催することができました。今後も、定期公演を行うなど精力的に活動していきます

 

 

移住したてで「中尾歌舞伎」に出演!

 私は、令和3年の秋季特別公演が初めての参加でした。

実は長谷に移住したのが令和2年だったため、まだ一度も中尾歌舞伎を観覧したことが無い状態でした。そんな中、代表の西村篝さんから、その年の夏に声がかかりました。「せっかく中尾に越してきたから、中尾住民として出てみないか?」と。

 

農村歌舞伎がどういうものなのか、検討もつかなかったので、その日私は、インターネットで検索をして動画を観てみたのです。そして衝撃です。私が想像していた以上に、本格的な舞台ではありませんか!演劇経験といえば、小学校の学校行事しかない私に出来るのだろうか。不安しかありません。でもほんの少し興味はあります。

 

そんなときに思い浮かんだのは、いつも声をかけてくださる中尾集落の方々でした。引っ越してきたばかりの私にも、家のことで分からないことがあると、なんでもみてくれたり、採れたて新鮮な野菜たちを抱えきれないほど分けてくれたり、本当に親身になって助けてくださいます。そんな方々に恩返しも込めて、喜んでもらえたら私も嬉しい。そう思い、挑戦してみることに決めました。

 

 それから数日後、中尾歌舞伎に出演する役者さんたちの初顔合わせと本読みに参加させてもらったのですが、そこでもまた衝撃がありました。雑談をしているときは皆さん、いたって普通にお話しされていたのに、いざ本読みを始めた途端、一体どこから声がでているのか、お腹の底から突き上げてきて、空間を突き抜けていくような、信じられないくらいよく通る力強い声が、目の前を行き交っているのです。

 

 私も役者の1人として参加させてもらっているわけですが、まるで最前列で鑑賞させてもらっているような、なんとも贅沢な体験をしました

 

 それからお借りした約7年前の公演DVD映像。笑いあり涙ありで、あっという間に1時間が過ぎてしまう作品でした。もうこの頃には、不安よりもワクワクする気持ちのほうが強くなっていました。

 

 そこから約2ヶ月間、公演本番まで週1回、最後は週2回、皆で集まって通し稽古を繰り返していきます。そして無事に本番当日を迎え、緊張もありましたが、それ以上に楽しさが勝る経験をさせてもらいました。

 

いただいたお野菜

 

中尾で感じた豊かな暮らし

今回、出演することを決めたのは、中尾集落の方々に喜んでもらいたいという理由が1番大きかったですが、実際に皆さんから、たくさんの声をかけていただき、喜んでもらえたことを実感することが出来ました。過疎化が進んでいる地域ではありますが、私たちのような会社を受け入れてくださり、私のような移住者にも惜しみなく力を貸してくださること、いくら感謝してもしきれません。

 

私はこの15年ほど、自家用車がなくてもスムーズに移動ができる都市圏内に住んでいました。5分歩かなくても食べ物を購入できる、24時間明るくていつでも生活音が聞こえるような、とてもにぎやか生活です。そんな生活と比較すると、長谷は真逆です。車で15分移動しないとスーパーはありません。ちょっとコーヒーでも買おうかなと思っても、車に乗らないといけません。こう書くと、何もなくて不便だなと感じるかもしれません。

 

ところが実際に住んでみたら、今までのどんな生活よりも贅沢でした。

 

お米は自分たちで栽培した無農薬・無肥料の栄養満点カミアカリ、野菜はその日に採れた旬の野菜をご近所さんにいただく。時には、猟師さんから鹿の肉をいただくこともあります。これぞまさしく、地産地消なのです。高級レストランで食べる料理も確かに贅沢ではありますが、採れたて新鮮で、生産者さんの分かる食材をその日のうちにいただく。これもまた最高の贅沢ではないかと感じました。

 

長谷に移住してから、まだ1年ほどですが、日々新しい発見の連続です。

これからも季節の変化を、肌にふれる空気や目の前でうつろう景色で感じながら、都会ではなかなか味わうことが出来ない贅沢を経験していきたいです。

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