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2022.4月

【哲学者内山節さん講演】農業は「地域の価値を最大化する仕事」

 哲学者・内山節さんのオンライン講演会が2月23日、長谷さんさん協議会の主催で行われました。内山さんは、群馬県上野村と東京で暮らしながら、自然や働くことなど、生活に密着した原理や知恵を探究している哲学者です。講演会では、日本と欧米の伝統的な社会観の違いから、自然を尊ぶ日本的な考え方が見直されつつあるとし、「産業としての農業」から「暮らしとしての農業」に目を移すべきだと主張。その上で、「利益の最大化を目指す日本の農業政策には限界がある」とし、これからは持続可能な農業を目指すべきだと話しました。(産直新聞社編集部・熊谷拓也)

 

 

オンラインで講演をする内山節さん

 

 長谷さんさん協議会が主催する講演会は、2020年2月につづき、2回目。前回は「転換期の現代と農業・農山村の役割」についてお話しされ、今回は協議会の活動をさらに充実させていくため、「これからの中山間地域の農ある暮らしについて」をテーマに内山さんの考えをうかがいました。この日はZoomミーティング、Youtubeライブで合わせて約80人が参加しました。

 

 まず前提として、人間が契約を結ぶことにより社会が成り立っていると考える欧米に対し、日本では自然と人間によって社会が構成されていると古来より考えられていて、基盤となる社会観が大きく異なっていると、内山さんは言います。ご飯を食べる時に「いただきます」と言うのは、「お米の命をいただきます」ということを指していて、私たちはいろんな命をいただいて生きているという考え方を暮らしの中で自然に受け入れてきたというわけです。

 

 明治以降、特に戦後になってから、日本は欧米的な価値観に染まってきました。これは農業についても同様で、「利益の最大化を目指す」という資本主義的な価値観が主流となり、日本の農業政策もそれを推し進めてきました。しかし、農水省が推奨する大規模農業は一時的に上手くいっても、経営を維持するための費用がかさみ、「持続性に問題がある」と内山さんは指摘します。

 

 

 そもそも農業というのは、地域のあらゆる自然体系によってつくられていると、かつて日本では考えられてきました。森、川、大地には神が宿り、それら地域の資源に支えられて、農のある暮らしが成り立っているという考え方です。暮らしの中から産業としての農業を切り離し、効率化を最優先して特定産地の形成、規模拡大などが図られてきましたが、その結果どうなったでしょうか。経済動向に振り回されては経営危機を迎え、採算を取るためにさらなる規模拡大へと進みます。しかし経営規模が大きくなればなるほど、自然と離れた農業になっていってしまうのです。

 

 内山さんは「農業で収益を上げることに反対しているわけではない」と言います。利益の最大化を目指すのではなくて、「持続可能な農業の在り方を探る中で、どう利益を上げていくかを考えた方がいいように思う」と。そして、日本で数千年続いてきた農業の歴史を引いて、「持続性という点において農業に勝る産業はない」と紹介しました。

 

 哲学の分野では近年、自然を軸に社会を捉える日本の伝統的価値観が見直され始めているといいます。そして、全国各地を訪ね回ると、自分たちで食べられるだけの農作物をつくり、他の仕事を組み合わせて生計を立てている人が確実に増えているそうです。内山さんは「農業を巡る価値観の転換を感じる。農業は単に作物を作る仕事ではなく、地域の自然の価値を最大化する仕事だ。そして、そこに関わる地域の人たちが持つ価値を最大化してくれる」と話し、約1時間の講演をまとめました。

 

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