長谷ってどんなところ?

2022.3月

持続可能なマウンテンバイクトレイル作りを目指す「トレイルカッター」

ゴツゴツした太いタイヤやサスペンションが特徴的なマウンテンバイク。ガイドツアーに参加することで、このマウンテンバイクを楽しめる国内最大規模のトレイルが、長谷の里山にあることを知っていますか? 山道を整備してトレイルを作り、維持管理をしているのは、道の駅「南アルプスむら長谷」の目の前に事務所を構える「トレイルカッター」です。なぜ長谷にトレイルを作ったのか、どのような配慮をしながらトレイルを開設、整備しているのか。代表の名取将さんにお話を伺いました。(ライター・松元麻希)

 

疾走感やスリルを味わえるのがマウンテンバイクの魅力

トレイルカッターの手によって整備された、バンク走行を楽しめるトレイル。先頭を走っているのが、トレイルカッター代表の名取将さんだ

 

街でも愛用者が多いマウンテンバイクだが、その名のとおり、元々は山道などのオフロードを走るために作られた自転車だ。マウンテンバイクとひとくちに言っても用途によって種類はさまざまで、山道を走る目的で作られたモデルには、滑りにくいブロックパターンの太いタイヤ、衝撃を吸収するサスペンションが装備されている。

 

山用の本格的なモデルにまたがり、山のなかを走ってみると、歩くスピードでは味わえない疾走感やスリルを味わうことができる。登山のフィールドとしては魅力を感じにくい眺望の少ない人工林の山でも、マウンテンバイクなら充分に満足できるフィールドに早変わり。移動距離も長くなるため、景色の変化をより多く堪能できるのも魅力だろう。

 

マウンテンバイクなら、沢の上でも豪快に走り抜けることができる

メインエリアのトレイルから、長谷の街を見下ろす。奥に聳えているのは、南アルプスの甲斐駒ヶ岳(東駒ヶ岳)と鋸岳

 

長谷を拠点にトレイルビルドやツアーを展開するトレイルカッター

トレイル上の倒木をチェーンソーで切断する名取さん。名取さんは林業の経験者でもあり、その知識や技術をトレイルビルドに活かしているそう

 

マウンテンバイクの愛好家は日本国内にも数多くいるが、さまざまな事情から心おきなく走れるフィールドが限られてしまっている。そんななか、長谷に総延長80㎞という国内最大規模のマウンテンバイクトレイル(※)を作ったのが、今回ご紹介するトレイルカッターだ。

※トレイルカッター主催のガイドツアー参加者のみ利用可能。

 

マウンテンバイクガイド&トレイルビルド事業を行うトレイルカッターが、長谷のトレイルビルドを始めたのは2009年。トレイルビルドとはマウンテンバイクのためのフィールドを作ることを意味するが、現在ではこのトレイルビルドに加えて、ガイドツアー、マウンテンバイク専用トレイル&マウンテンバイク専門店の運営という3本柱で事業を行っている。

 

1、トレイルビルド(長谷、西箕輪、その他地域)

南乗鞍無印良品キャンプ場のマウンテンバイクコースのリニューアルに伴い、トレイルカッターのメンバーで施工を担当

 

伊那市内では長谷のマウンテンバイクトレイルのほか、伊那市西箕輪のマウンテンバイク専用トレイル「C.A.B.TRAIL(中央アルプスマウンテンバイクレイル)」の施工や運営を手掛けている。さらに、「ふもとっぱらキャンプ場」「南乗鞍無印良品キャンプ場」「ピカ相模湖キャンプ場」など県外の人気キャンプ場内のマウンテンバイクコースの企画や設計、施工などにも関わっているのだ。

 

2、ガイドツアーの実施

10本以上のルートをもつ「メインエリア」。トレイルはほぼ下りのみで、初心者も走りやすい


トレイルカッターが手掛けた長谷のマウンテンバイクトレイルを楽しむためには、トレイルカッター主催のガイドツアーへの参加が必須となる。ツアー形態は1グループ貸切の「プライベートツアー」と公募型の「オープンツアー」の2種類。特徴や難易度が異なる3つのエリアがあり、一番人気は初級者から上級者を対象とした「メインエリア」。さらに中上級者向けに「3 rdエリア」、最上級者向けに「バックカントリーエリア」が用意されている。コロナ禍前は、海外からもマウンテンバイカーが訪れ、ツアーに参加していたそうだ。

 

体力も技術も要するワンウェイの「バックカントリーエリア」。アップダウンがあり、距離も数10kmあるため、走り応え充分

 

3、C.A.B.TRAILと二輪舎knotの運営

C.A.B.TRAILのコースの一部。波打つトレイルは、すべて手作業で整備されている 

 

2020年、伊那市西箕輪にある観光農園「みはらしファーム」の裏山にオープンしたマウンテンバイク専用トレイル「C.A.B.TRAIL」においては、トレイルカッターが企画から設計・施工・運営までを行っている。長谷のトレイルとは異なり、料金を支払えばだれでも利用することが可能。みはらしファーム内にあるマウンテンバイク専門店「二輪舎knot」も運営し、マウンテンバイクの販売や自転車のメンテナンスなどを行っている。

 

長谷がマウンテンバイクに適する地形的・気候的なポテンシャルとは 

メインエリアのコースの一部。長谷のトレイルには、このようななだらかな道から急峻な道まで、バリエーションに富んだコースがある 

 

トレイルカッター代表の名取さんは、マウンテンバイカーの聖地「富士見パノラマリゾート」のある長野県富士見町出身だ。そんな名取さんが、なぜ長谷を選んだのか、その理由を伺った。

 

「長谷は、マウンテンバイクに適した日本有数の地域だと感じたからです。標高差が大きくダイナミックな地形で、世界に誇れる魅力がある、ということがひとつ。礫が多く泥濘化しにくい土質なので滑りにくいこと、腐葉土層が薄く痩せた土壌なので乾きやすいことが、走りやすくていいですね。また気候も最適で、標高が高くて涼しいこと、積雪が少ないので走れる期間が長いことなどが、マウンテンバイカーにとっては魅力的。トレイル運営側の視点では、降雨量が少なく晴天率が高いので、安定的な営業ができることをメリットに感じています」

 

そのほかにも「三都市圏どこからもアクセスできるため海外からも訪れやすい」「鹿が多く藪が茂りにくいため、開放感があり開設も容易に行える」といった利点があり、マウンテンバイク事業の拠点として長谷を選んだという。

 

トレイルの実現にもっとも必要なことは、地域の理解を得られること

マウンテンバイクトレイルの次なる展開について、日々、地域の方々との意見交換を行っている

 

 

長谷のトレイルは、林業や炭焼きなどを生業としていた人が使っていた古道を整備して作られている。トレイルを形にするにあたって、まずは地域の人々に理解を得るところから、時間をかけて取り組んでいったそうだ。

「地域の方々の理解を得て実際にトレイル作りを始めるまで、4年近くかかりました。当初はマウンテンバイクという遊びがほとんど知られていなかったので、『この道を使わせてください』と交渉に行っても、断られることが多かったですね。ただ、理解してくださる方々もいて、その方々が地域と繋いでくれたおかげで、ここまでトレイルを広げることができました」



補修は張り出した木の根を切るのではなく、上から土をかぶせて行う

トレイルの浸食が進行すると、このように木の根や岩が土の上に張り出す状態に

 

地域の理解を得てトレイルが完成したところで、それがゴールではない。時間をかけて作り上げたトレイルを持続的に利用できる状態にするためには、維持管理がとても重要になる。マウンテンバイクのトレイルにとって避けては通れない問題のひとつが、路面の浸食だ。走れば走るほど、土がえぐれて凹凸が激しくなり、走りにくい路面になってしまう。

 

トレイルカッターでは、浸食のスピードをできる限り抑えるために、こまめな整備をしたり、トレイルの利用をガイドツアー参加者に限定したり、ツアー参加者にトレイルへの負荷が少ない走り方をレクチャーしたりしているという。

 

「だれでも気軽にマウンテンバイクが楽しめる」ことをコンセプトに設計された、C.A.B.TRAILのコースの一部

 

現在は「マウンテンバイクを持続的に楽しめる環境づくり」に向けて、リピーター獲得のためのトレイルの拡張、裾野を広げるためのマウンテンバイク専用トレイルの開設に向けて奔走しているトレイルカッター。これからも地域と連携をしながら、「マウンテンバイク」という新しい価値を長谷に創造し続けるのだろう。










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