長谷ってどんなところ?

2022.3月

【長谷住民からのお便り】鹿部 持ちつ持たれつの自然との暮らし~お米づくりから始まった狩猟~

長谷・中尾にある農業法人「Wakka Agri」ブランド名「the rice farm」で働く小松一輝さんは、長谷・黒河内生まれの生粋の長谷人。自然が豊かであるが故に増大する獣害に対応し、長谷を守るために鹿を狩る「鹿部」を束ねる小松さんに、“持ちつ持たれつの自然との暮らし”について書いていただきました。

 

稲の葉先がすべて食べられてしまってのをご覧いただけるでしょうか?これが鹿の食害です

 

the rice farmの「鹿部」

さて今回のお題である「鹿部」ですが、農業といえば…昨今問題と言われている有害鳥獣被害ですね。

我々のお米づくりも鹿の食害被害と隣り合わせでした。栽培を始めた当初は鹿も警戒していたためか食害はわずかでしたが、年々被害は増加し2020年シーズンには山付きの田んぼ2枚は丸々鹿のご飯となりその周辺でも被害は多大でした。手塩にかけて育てたお米は数日のうちにみるみるなくなり対策を打つ間もなかったですね。

 

そしてその状況を目の当たりにしたまさにその時、その場で「お米を守るぞ!」という決意とともに“鹿を狩る”部隊、「鹿部」が発足しました。「食べられるなら食べる!持ちつ持たれつの関係や!」そんな勢いでしたね(笑)。その中でもお米を守ることが前提にあるけれどいただいた命は粗末にせずにちゃんといただこうという意識をみんなで共有しながら始まりました。

 

翌年2021年のシーズンに備え鹿部の部員は罠猟の資格を取得し、罠猟をしている方に実際の狩りをさせてもらい勉強をさせてもらいました。シーズンに入ると有害鳥獣駆除の講習会に参加してこれでお米を守る準備は万全!また伊那市ではセンサー罠の貸し出しをしていましたが利用者が少なく、幸いなことに在庫があるということだったのでお米づくりをしながら狩猟をする僕たちにとってはとても強い味方でした。

 

鹿部1年目の昨年は食害が多く出る田植え後と収穫前を重点的に常時20個ほどの罠を田んぼ周辺に仕掛けていました。里山周辺の獣道を探して「ここは最近歩いているな。」とか「このルートで田んぼまで来てそうだ。」とか鹿が稲を食べに来るまでの習性を考えながらやっていましたね。猟友会の方には「仕掛けた後の罠の見回りが大変だぞ。」とか「毎日見回らなきゃダメだ。」と言われていましたが罠センサーのおかけで鹿見(鹿がかかっているか見回ること)の負担を軽減でき、かかったときにメールが来るので殺める心の準備や仕事のスケジューリングがスムースにできたのでとても重宝しました。

 

2021年は、食害が多い田植え後と収穫前に、田んぼ周辺に常時20個ほどの罠を設置。罠センサーも設置したため、鹿見の負担は軽減されました

 

そんなこんなでニホンジカやアナグマ、タヌキ、ニホンザルを20頭ほど捕獲しました。本当は余すところなく食して皮の活用までできたら良かったのですが時間の都合などタイミングがあってなかなか難しかったです。

 

そういえば「夜警キャンプ」というものも企画していましたね!

田んぼでキャンプをしながら夜中エアガンを持って見回るってこともやってみました笑。

実際、鹿に遭遇して追い回したりしましたが効果があったかどうかは…ただ楽しかったです(笑)。最終的には食害が大きくなると予測される田んぼには電気柵も駆使してお米を守り抜き、お米への被害はというとほとんどありませんでした。ただエリアが広いので油断していると食べられてしまっているところもちらほらと…翌シーズンへの課題ですね。

 

田んぼを守るネットフェンスの確認、修繕も欠かせない大事な仕事。針金なのですが、それでも綻ぶから驚かされます

 

「狩猟」を通じて感じるもの

この活動を通じて1番思うこと、それは「自然との共存」ですかね。

お米作りからはじまった鹿部ですがそもそものお米作りでは無農薬・無肥料で栽培しています。そのため天候をはじめ、我々の水見であったり除草であったり日々の管理が成長に大きく影響します。農薬や肥料によって雑草が抑えられたり成長を促進したりすることはできないんですよね。そういった意味でも自然の偉大さやありがたみをすごく感じています。

それは狩猟でも同じかなと感じています。お米を食べられ、鹿を食べる。すごく理にかなっているというか自然なことだなと思っています。そして今の時代、自分の手で生き物を殺めてさばいて食べることなんてほとんどの人が経験しないと思うんです。スーパーに行けばスライスされたお肉やお魚が並び、それまでの過程って知らなくていいし苦しい部分を見なくても済んでしまうという…本当の意味での「いただくありがたみ」って感じられにくいですよね。殺めるときにはとても複雑な気持ちになります。これは経験しないとわからないかと思いますが、この気持ちがあるからこそいただいた命を余すところなく使おうって気になります。

 

余談ですが昨今、地球ごと(巷ではSDGs)でも叫ばれていますよね。フードロスとか工業型畜産による温暖化、森林破壊、飢餓…そういったことにも関心を持ち、アプローチするいいきっかけだとも思っています。狩猟によって里山に人が入り鳥獣を狩ることで鳥獣被害が減り、家庭菜園も含めた農業がやりやすくなり、ジビエにより家畜の消費量が減り、革製品により自作できるものが増える。要は「地給地足」ができる、そのサイクルが地域を支えてくれるとも思っています。それが古き時代の「自然との共存する暮らし」だったのかなと感じています。

 

鹿肉のユッケ。臭みもなく栄養満点で非常に美味しい。添えられているニンニクとショウガはお好みで。生肉はリスクもあるので、自己責任でお召し上がりください。

 

狩猟のススメ

 僕は狩猟を始めたことによって生きるためのすべとしても感性としても仕事の幅としても大きく広がった気がしています。とにかく得るものが多い!笑。国としても有害鳥獣対策には手厚く補助してくれていますので始めるハードルはそこまで高くはありません。とは言っても地域との関係性や手間暇もかかり1人で始めるのは容易ではありません。

また抵抗がある方も多いと思いますが、ぜひ身近に感じていただきたいです。免許はとらなくてもいい。この過程を経験できるだけでもいいと思うんです。the rice farmでは今後も鹿部の活動を続け、いただいた命の活用を進めていきます。食肉としてはもちろん、「皮から革へ」加工にも取り組んでいきたいと思っています。少しでも興味のある方がいれば我々を覗いていただき狩猟を始めるきっかけになれればと思っています。

 

ページトップへ ページトップへ