長谷ってどんなところ?

2021.8月

伊那市長谷に待望の地ビール!大好評の「HASE」の魅力に迫る

2021年4月、伊那市長谷産のコメを原料とする地ビールが新登場しました。その名も「HASE(ハセ)」!そのおいしさから瞬く間にファンを獲得し、発売から3ヵ月連続で追加醸造するほどの人気ぶりとなっています。棚田に囲まれた中山間地の長谷でコメを自然栽培している農業生産法人・Wakka Agri (ワッカアグリ)が原料を提供し、伊那市のクラフトビール醸造所・In a daze Brewing(イナデイズブルーイング)が醸造を担当。希少な巨大胚芽玄米「カミアカリ」を贅沢に使用した、HASEの魅力と誕生秘話をひも解きます。

(金藏未優、熊谷拓也)

 

長谷で話題の「カミアカリビール」

丸みを帯びたグラスに注がれた、深みのある黄金色のビール。太陽の日差しを受けると、本場・欧州のクラフトビールを思わせる、特徴的な濁りが目に留まる。ただ、喉をくぐらせると、意外や意外、飲み口はすっきりとした印象だ。これなら、仕事の後にグイグイ飲みたくなる。農作業の疲れを癒すには、まさにうってつけのビールだ。

 

HASEの一番の特徴は、「カミアカリ」と呼ばれる玄米が原料の50%以上を占めていることだ。伊那市長谷で農薬も肥料も使わずにコメを生産する、Wakka Agriが主力に据える玄米食用の品種だ。コメを原料に使うだけでも珍しいのに、代わりに玄米を使ったらどんなビールができるのか。それは、Wakka Agri社長の細谷啓太さんにとっても、未知の挑戦だった。

 

21年3月に関係者が集まった試飲会。細谷さんもそこで初めてHASEを口にした。米を口に含んだ時に広がる穀物の甘み。そして、雑味はなく、すっきりしている。「これまでどぶろくや日本酒にした時には癖の強い玄人向けに仕上がったのに、ビールではいい意味で予想を裏切られました」(細谷さん)。Wakka Agriが目指していた、「どんなおかずとも相性抜群で食卓に置きたくなる『テーブルラガー』が誕生した瞬間だった。


ビールの出来栄えの良さは売れ行きに直結した。初めて醸造した3000缶(1缶350㎖)はあっと言う間に売り切れた。まだ発売から3ヵ月も経っていないのに、今は3度目となる追加醸造の準備をしていて、それも予約時点ですでに完売だというから驚いてしまう。

 

「長谷の特産品を生む」挑戦

長谷育ちの玄米でできた「HASE」

 

Wakka Agriはもともと、日本産のコメを海外で売る「Wakka Japan(ワッカ・ジャパン)」(札幌市)の生産部門としてできた。販売拠点は現在、シンガポール、台湾、ハワイ、ベトナム、ニューヨークにある。いずれも在留法人が多いエリアではあるが、「お米を炊いて食べる習慣のない層にもリーチしたい」(細谷さん)との狙いから、近年は加工品開発に力を注いでいる。

 

これまでに手掛けてきたのは、切り餅、ポン菓子、甘酒、日本酒とバリエーション豊富。今回は、農業を核とした地域振興に取り組む「長谷さんさん協議会」の支援を受けてビール製造に踏み出した。ただ、HASEのように「長谷を前面に押し出すような商品」はこれまでなかった。では、彼らの特色である「自然栽培」でもなく、はたまた「カミアカリ」でもなく、どうして「HASE」=「長谷」を商品名に採用することになったのか。

 

「ここで農業をやるにつれて、長谷との結びつきが年々強くなっています。集落と協働して農業をやっているという実感が自分たちの中でも強まってきました。そこで、『長谷を背負った商品を出してもいいんじゃないか』という話になりました」(細谷さん)

 

醸造を依頼した、伊那市のクラフトビール醸造所「In a daze Brewing」の代表冨成和枝さんと、Wakka Japanの社長出口友洋さんとは、共に信州大学卒業生という間柄だ。2020年の春から準備に動き出し、1年がかりで試作品完成に漕ぎつけた。

 

ラベルは、伊那市のデザイン事務所「ヒトコトデザイン」の代表小澤純一さんが担当。長谷の山々の稜線や棚田をイメージしたラベルに仕上がった。

 

これからも、長谷と共に歩む

Wakka Agriのメンバー。中央が細谷さん

 

HASEの完成後、細谷さんの下へは長谷の住民から反響が寄せられている。

 

「長谷地域の方々が、長谷の米で作った長谷のビールということを喜んでくれています。中には神棚に上げているという方もいるほど。そういう反応がいただけるのは、本当にうれしいです」(細谷さん)

 

長谷で農業を始めてから2021年で5シーズン目。あらためて、Wakka Agriの今後への抱負を細谷さんに聞いた。

 

「地域の人にリアクション(反応)してもらえたことで、長谷という名前をつけたかいがあったと感じています。ぼくらは水路や道路など農業インフラを守る地域があってこそ成立する農業生産法人です。長谷が衰退したら、ぼくらも衰退せざるを得ない。ぼくらなりの方法で長谷をもっと盛り上げていくつもりです」

 

夏は南アルプスの山頂を目指す登山者でにぎわう長谷地域。これまではWakka Japanの販売網を通じた海外での販売が主だったが、ついに道の駅「南アルプスむら長谷」での販売が始まった。長谷を代表する土産品として定着する日も、そう遠くはなさそうだ。

 

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