2021年4月、伊那市長谷産のコメを原料とするクラフトビール「HASE(ハセ)」が誕生しました。長谷の棚田で自然栽培のコメをつくっている農業生産法人・Wakka Agri (ワッカアグリ)が原料である玄米を提供し、伊那市のクラフトビール醸造所・In a daze Brewing(イナデイズブルーイング)が醸造を担当。長谷の名を冠した待望のクラフトビールです。
地元の皆さんからも注目が集まり、販売後3カ月で追加醸造となるほど、人気商品となっています。しかし「まだ飲んだことがない!」という人も多いはず……。玄米ビール「HASE」の味わいと楽しみ方について、お酒のプロに話を聞いてきました。(産直新聞社編集部・柳澤愛由)
※「HASE」は正式には発泡酒ですが、ここでは便宜上ビールと表記しています。
■「HASE」ってどんなビール? その特徴をおさらい
お話を聞く前に、まず「HASE」というビールの特徴についておさらいします。「HASE」は全国的にも珍しい、玄米を使ったビール。しかも長谷の棚田でつくられた「カミアカリ」という珍しい品種が使われています。「カミアカリ」とは、胚芽の大きさが通常の3倍余という玄米で食べることに特化した品種。日本でも数える程の農業者の方しか生産していません。長谷では、Wakka Agriという農業生産法人の方々が栽培しており、主にアメリカや香港など、健康志向の客層向けに輸出しています。そんな玄人向けの品種である「カミアカリ」を使っているのであれば、「HASE」の味わいも玄人向けでは……?と思いきや、醸造を担当するIn a daze Brewingの紹介文にはこう書かれています。
“希少な玄米カミアカリを贅沢に使い、どんなおかずにでも合う、まるでお米のようなテーブルラガーができました。” (In a daze Brewing HP紹介文より)
ビール好きはご存知の通り、ラガービールとは、のどごしが良くすっきり爽快、ゴクゴク飲めるタイプのビールです。それは意外! さて、ここからは、プロの目から見て「HASE」とは一体どんなビールなのか、小売り酒屋を営む次のお二人に解説していただきます。
【解説者】
〈Nさん〉
ワインアドバイザー。国内外、
確かな舌と知識でこだわりの酒・ワインをそろえる。
〈Iさん〉
利き酒師。特徴ある地酒を豊富にそろえ、
客やつくり手からの信頼も厚い。
■どんなおかずにでも合う、ライトに楽しめる玄米ビール
—さっそく飲んでみて、いかがでしたか?
Nさん(以下、N) 玄米を使ってるっていうからどんな感じだろうと思ったけど、想像よりもクセがなくライトでスッキリと味わえるビールでしたね。
Iさん(以下、I) それは僕も思いました。クセがないので、のど越しの良いラガー系のビールが多い日本では、とくに好きな人が多いかもしれないですね。
—やっぱり、“どんなおかずにでも合う、まるでお米のようなテーブルラガー”という紹介文の通りの味わいなんですね。私も飲んでみましたが、普段そんなにお酒を飲まない私でも、非常に飲みやすくておいしかったです。それにしても、玄米を使ったビールなんて珍しいですよね。
N そうだね。どうやって糖化させてるんだろう?
I かなり珍しいですよね。お米を使ったビールというのは全国を見渡せば比較的あるけど、玄米はあまり聞いたことないですもんね。
—玄米感は感じましたか?
N 玄米の味わいはそれほど強くなく、鼻腔にほのかな香ばしさを感じる程度だったかなぁ。
I 僕も、強くはないけど、白米を使ったビールにはない、ほのかな香ばしさは感じました。それより、口に含んだ瞬間に日本酒や甘酒にある、麹のような風味の方を感じましたね。
—なるほど、そういう特徴もあるんですね。普通のビールにはない特徴がありながらも、クセが無く、お米のように万人の方に受け入れられそう—、であれば、長谷のおじいちゃん、おばあちゃんや、普段ビールを飲まないような方にも勧められる1杯だといえるのかも。
I エールビールとかが好きな人は、大人しい味わいだと感じる人もいるかもしれないですけど、“農作業後の1杯”というコンセプトにはぴったりですよね。
長谷の田んぼで草取り。こんな暑い日の農作業後のご褒美にぜひ「HASE」を!
■農作業後にぴったりの爽快な飲み味
—醸造所の紹介文にありますよね! “「農作業後に仲間と楽しめる地酒を!」というリクエストを受け、口当たりは軽やかでグビグビ飲める、かつ香ばしさとうまみを閉じ込めた味に仕上がっています。”(In a daze Brewing HP紹介文より) あぁ確かに、農作業後にこのビール飲んだらおいしいかも。
N あと、アルコール4%というのも、体にスッと馴染むアルコール感だと感じました。最近のクラフトビールは8%や9%、それ以上のものも多く出てたりするけど、それだとちょっと重たくてグビグビ飲めないし……。そう思うと、本当に農作業後の1杯にはもってこいのビールだね。私は最初、夜に飲んで次に昼飲みしてみたんだけど、昼に飲んだ方が酸味を感じたな。暑い日であればこの酸味がより心地いいかも。
I 「真夏の農作業後、ご褒美の一杯」なんて飲み方が最高かもしれないですね。
—なるほど、想像しただけでおいしそう……!
■食欲をそそる、口当たりの軽やかさ
N あと、軽やかな口当たりだから、酸味のある食べ物にはバッチリ合うね。のど越しもいいので、食前の1杯にも心地よく飲める気がします。食欲をそそるビールだね。
I 味わいに重さがないから、食事を楽しみながら味わうビールとしてもいいですね。
N あと、考察だけど、本来、ビールに使う麦芽は醸造すると重甘な味わいになるんですが、「HASE」は半分以上が玄米だから、その甘さが軽減されて絶妙な軽やかさが表現されているのかもね。
I 玄米を使っていることでの味への影響でいえば、糠や胚芽など、本来、酒造りに必要ないものをあえて残しているからこそ、日本酒のような麹の風味がより表現されているようにも思います。
長谷で栽培されている玄米「カミアカリ」。玄米らしい風味、うま味が強い玄米食専用品種
—玄米を使うことの効果がそういう所にも現れているんですね。お話を聞いていたら飲みたくなってきました。観光客の方はもちろん、地元の方や遠方に住む長谷出身の方など、ぜひ多くの方に飲んで頂きたいビールです。本日は勉強になりました。ありがとうございました!
<「HASE」が買える場所>
道の駅 南アルプスむら長谷 ファームはせ
〒391-0301 長野県伊那市長谷非持1400
【TEL】0265-98-2955
【営業時間】(4月~11月)9:00~17:30 (12月~3月)9:00~17:00