伊那谷の有機・自然栽培
リレー講義

「土を育てる」 赤羽正二朗さん—有機肥料で農業を支援、
 株式会社フォーレスト西日本営業部長

長野県伊那市の株式会社「フォーレスト」は、日本古来の「発酵」技術を利用した“土づくり”で、全国の農家を支える仕事をしています。天然素材100%の「バイオ酵素」の力によって、生産コストの低下と農作物の品質向上を両立させる技術には定評があり、遠くはニュージーランドの農家にまでその酵素を届けています。今回は、西日本営業部長の赤羽正二朗さんに、「土を育てる」をテーマに語っていただきました。

(以下の文章は、農ある暮らし学び塾オンライン第4回として動画配信された講義の内容を再構成したものです)

■“まずい野菜”と“おいしい野菜”を分けるのは?

まずは、“良い農産物”とは何か、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。我々が思っているのは、まずは食べてみておいしいかどうか。甘味と旨みが大事になってきます。それから苦みが少ないということで、含まれる硝酸態窒素が少ないこと。よく緑の濃い野菜の方が、栄養があっていいと言われますが、実際は葉っぱが芽吹きの頃のような淡い色、薄い黄緑色の野菜の方がおいしいですし、体に害があると言われている硝酸態窒素も少ないと言われています。それから、健康から見て栄養が豊富ということ。これは、ビタミン、ミネラル、アミノ酸等です。最近は、抗酸化力が高い、つまり、老化、病気の元の除去力が高いということも言われ始めました。栽培から見ますと、やはり、土づくりをしていること。完熟堆肥、緑肥、ミネラル、有機肥料、菌体ぼかし、酵素などを上手く利用しながら土を作り続けていく。そして、必要以上の農薬、化学肥料は使用しない、そんな持続可能な栽培が求められていると思います。
まずい野菜とおいしい野菜をグラフで表現してみたのですが、まず、まずい野菜から。光合成でブドウ糖が葉っぱで作られるというのは、皆さんご承知の通りですが、この根っこから窒素肥料が加わって吸われていきます。その時、ブドウ糖と窒素肥料が合わさったものがアミノ酸。旨みの素になります。今年のように曇天が多く、光合成が弱くてブドウ糖が蓄えられなかったという場合は、未消化窒素として残ってしまいます。これが俗にいうえぐみの元であり、残留窒素と言われるものになります。ブドウ糖も少ないので、アミノ酸の全体量も十分にできないということで、旨みも少なくなってしまいます。かたや、光合成がしっかりできる場合。ブドウ糖が潤沢に合成できて、根っこから適切な量の窒素が入っていくと、旨みの素であるアミノ酸が高いレベルで合成されます。それから、窒素肥料と一緒にアミノ酸になりきれなかったものがそのまま甘味となるので、おいしい野菜ができます。このような野菜ができるようにどんな努力ができるのかが、一つの土づくりの技術だという風に考えています。

■目指すは「広葉樹の山の腐葉土」

私たちが目指すのは、広葉樹の山の腐葉土です。広葉樹の山の落ち葉をどかした時の匂いを思い出してください。「放線菌」という有用菌が出す落ち着いた匂いです。この放線菌は抗生物質を作りますので、他の悪玉菌が減少し、有用菌が増殖していきます。それと有用菌により産出された酵素で次々と有機物が分解され、その際に発生する発酵ガスが硬盤を砕いて土をほぐし、のり状の粘物質により分解された土と有機物、ミネラルがくっつき、「腐植」が作られます。この腐植は菌の住みかとして、またミネラルや肥料成分の貯蔵基地として、植物や有用菌にとって最も重要なパートナーとなります。

山では土の層を1センチ作るのに、100年かかると言われていますが、何千年もかけて少しずつこの腐植製造作業をして、土を育てています。しかし農業ではスピードを上げて毎年同じ年の状態以上を作り出すことが求められます。そこで必要になるのが、緑肥や完熟たい肥の導入です。例えば、10アール当たり3トンの堆肥を投入して、10%に当たる300キロが腐植化すると言われています。しかし、土壌微生物の作用で10アール当たり150キロがガス化して消失してしまいます。継続的に投入しないと、土壌中の腐植量は増えていきません。「土づくりには最低3年かかる」と言われる理由もここにあります。我々は緑肥や完熟堆肥などを使って地場菌をスムーズに酵素状態に誘導することで、有機物の分解速度を高め、年々土が育つ農業を応援しています。

微生物についてはまだまだ分からないことが多いようです。上のグラフにあるように、どんな先生にお聞きしても、99%の微生物はまだ培養ができない微生物で、いることは分かっても何をやっているかは分からないということです。土1グラムの中には100億匹もの微生物がいると言われています。農業で使う土の深さを10センチとして、畑10アールに100トンの土がありますから、そこには途方もない世界が広がっているわけです。

詳細は分からないながらも、自然界の菌のバランスは「発酵菌が2割、日和見菌が6割、腐敗菌が2割」となっているそうです。この発酵菌と腐敗菌は常に綱引きをしていて、日和見菌は強い方に付きたいなという風に、風見鶏のようにうろうろしている。だから、日和見菌が「こっちが優勢だ」と言って発酵菌の側に付いて8対2の環境をつくれば、それは発酵に。一方、腐敗菌が優勢になって日和見菌がそっちの方を向いてしまえば、腐敗になります。我々としては発酵状態を維持するお手伝いができればと考えています。

■微生物を味方にして、“低コスト・高品質・多収穫”の農業を

有機物の分解過程は、発酵と腐敗の二通りあります。有機物という意味では、米も、大豆も、鶏糞も、どれも同じ有機物です。それが例えば、湯がいた大豆をそのまま放っておくと、大腸菌、腐敗菌が増殖してきます。そうするとそこで出来上がったものは、人間や動物、土にとっては有害なものとなります。一方、この分岐点を発酵の方に転がったとします。みそ作りなら、すぐにこうじや塩をまぶしてあげると、乳酸菌と発酵菌が活躍して、みそが出来上がります。人間や動物、土にとって有益な世界がこちらにあります。同じ有機物ですが、転がり方によってまったく世界が違うというわけです。

土壌にも「発酵型土壌」と「腐敗型土壌」があります。発酵型土壌は好循環で、多様な有用微生物が増加します。そうすると、俗にいう団粒構造の形成、排水・保水性、保肥力の向上といった効果が加わります。さらには、毛細根すなわちセンサーが発達しますので、“自分で選ぶ根っこ”になります。これは、余分な肥料、特に窒素を吸収せず、ミネラルを多く吸収できることにつながって、樹液濃度、糖度、食味、日持ちが向上して、病気や虫に対する対抗性も高まります。こういった農業ができると、農家の皆さんは低コスト・高品質・多収穫の農業を実現できます。

かたや、腐敗型土壌はどうでしょうか。今年の長雨でかなり根腐れの病気も出ましたが、それは特定の有害微生物が増加しているせいです。いい菌は「みんなで増えよう」、悪い菌は「自分だけ増えよう」という傾向があるようです。単粒構造の形成、これは根が詰まったカチカチの土です。排水性、保水性、保肥力が悪くなります。そして、直根のみ発達していきます。太い根っこしか出ないんですね、そうすると、センサーが未発達ですので、肥料、特に窒素をあるだけ吸収してしまいます。ミネラルの吸収はごくわずかになってしまいます。樹液濃度、糖度、食味、日持ちも低下して、病気や虫に対する抵抗性が低下してしまうので、農家さんにとっては高コスト・低品質・低収穫の農業という形で、悪循環の方に転がってしまう。そうした土づくりから始まる流れがあるんです。

我々は「土壌丸ごと発酵」と呼んでいますが、畑の中には有用微生物がたくさんいるので、それらの微生物が増える条件をしっかりと整えてあげれば、自然に土ができていくと考えています。

【プロフィール】

株式会社フォーレスト西日本営業部長。バイオ酵素の持つ環境浄化機能を活かした土壌改良・循環型肥料を製造販売する企業でありながら、酵素を売ることではなく、バイオ酵素で「生産費を下げ、品質を高め、収穫量を上げる」ことを実現し、農業者の手取りを多くするノウハウを提供することが使命であるとする経営理念のもと、土づくりから地域農業の振興に努めている。

本編はこちらから⇒農ある暮らし学び塾オンライン第4回(2020年9月24日)

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